原稿の書き方

1.原稿を書くためのツール ~手書きとワープロ

 原稿を書くにあたっては、手書きではなくパソコンとワープロソフトを使うべきです。パソコンを所有していない人やワープロソフトを使ったことがない人は少ないでしょうが、何かまとまった文章を書くならば、とえりあえずパソコンを用意しましょう。手書きが絶対にダメだとは言いません。しかし、「電子書籍化」という作業自体がテキストデータを抽出する作業が前提となっており、電子書籍用の原稿は電子化されたデータであることが必須です。むろん、手書き原稿をあらためてパソコンで入力して電子データ化しても構いませんが、それでは二重手間になりバカげているとも言えます。従って、電子書籍を制作・出版するために新たに書籍原稿を書くのなら、パソコンで書く、すなわちワープロソフトを使って原稿書きをするのが一般的です。
  もうひとつ、手書きよりもワープロソフトで原稿を書いた方がよい理由があります。長い文を書くためには事前にしっかりと文章全体の構想を固めた上で書いていく必要がありますが、ワープロで文章を書く場合、「書きながら文章をまとめてく」ことができるからです。キーワードとなる言葉や、思いついたアイデア、コアとなる前提や結論などを短い文章やフレーズでバラバラに書いていき、それをつなげたり削ったりしながら文書を作り上げていく…というプロセスで、長い文にまとめることできるのです。
 またワープロならば、いったん完成した文に後から新しくセンテンスを加えたり削ったりするのも自在、前後を入れ替えたり表現や表記を変えたりも自由にできます。消しゴムは要りません。要するに、ワープロならば思いつくままに適当に文章を書きながらそれを一つの文にまとめ、推敲して文の構成や表現を変えていくことができるのです。こうした作業ができることで、執筆初心者にとっては、手書きよりもはるかに効率よく「まとまった文」を書くことができるのがワープロです。また、フリーソフトも含めてたいていのワープロソフトには文章校正機能やスペルチェック機能が備わっており、これだけで万全の校正はでいないものの、下校正程度ならそれなりに便利に使えます。さらに文章変更履歴を記録する機能も便利です。

 ちなみに、電子書籍化が目的ならば、ワープロソフトの種類は問いません。むろん、ワープロソフトのスタンダードと言えば「Microsoft Word」であり、これらを使うのがいちばんよいのですが、絶対にWordでなくてはならないということでもありません。Windows機ならば「ワードパッド」という簡易ワープロがOSに標準搭載されていますから、それを使っても十分に長い文章を書くことができます。ワードパッドは上限16MBという編集可能なファイル容量の制限がありますが、書籍1冊分程度の原稿ならどんなに多い文字数でも問題ありません。また、原稿を書くためにわざわざパソコンを買ってワープロを使ってみよう…という中高年の方もいるかもしれません。原稿を書くためにわざわざパソコンを購入するなら、安価な中古のパソコンを導入しても問題ありません。実際のところ、原稿を書く程度なら高性能の最新パソコンは不要で、2~3万円で購入できる安価な型落ちの中古パソコン(大半がWindows機)でも十分に実用的に使えます。安価な型落ちパソコンを買った場合、オフィススイート(ワープロや表計算ソフト)がインストールされていないこともあります。そんな場合でも、わざわざWordのような高価なワープロソフトを購入する必要はありません。「Apache OpenOffice」や「LibreOffice」などのフリー(無料)のオフィススイートの中に高機能のワープロソフトが含まれており、誰でも簡単にインストールして使うことができます。これで、Wordとほぼ同等の機能を使うことができるのです。こうしたフリーのオフィススイートに含まれるワープロソフトで出来る文書ファイルは、標準ワープロとも言えるWordの文書ファイルと互換性があるので安心です。

 以上は、あくまで「ワープロで書いた原稿を、後から別のツールを使って電子書籍化(EPUB化)する、または電子書籍制作事業者にEPUB化作業を依頼する」ことを前提とした話ですが、最近は「EPUB書き出し機能」を備えたワープロソフトが存在します。代表的なソフトが「一太郎」です。一太郎は昔から有名なワープロソフトですが、書き上げたワープロファイルをEPUBファイルに変換する機能を備えています。そればかりか、Amazon Kindleストアにそのままアップロードできる「mobi形式」(EPUBの一種)での出力も可能です。楽天KoboのEPUB3形式にも最適化できます。つまり一太郎を使って原稿を書けば、その後の電子書籍化作業を自分で行うことができ、簡単に大手電子書籍販売ストアにアップロードできるというわけです。一太郎の最新版は1万円ちょっとの価格で購入することができるので、すべて自分で行うことを前提に電子書籍の制作・出版を決めたなら、最初から一太郎を購入してしまうのもひとつの選択肢です。
 ただ、ワープロソフトが備えるEPUB出力機能で生成したEPUBファイルは、電子書籍リーダーで読むとワープロソフト上で編集した画面とは大きく異なるケースが出てきます。このあたりの問題については、第2編で詳しく説明します。

 また、あまり一般の人には馴染みのない製品ですが、「WZ Writing Editor 2」というEPUB出力機能やEPUBダイレクト編集機能を持つテキストエディターがあります。有料ですがワープロソフトよりも安価(3800円)なので、これでセルフパブリッシング用の原稿を書くのもいいでしょう。EPUB出力機能を持つテキストエディターは他にも何種かあります。  ところで、スマホの操作・入力に慣れた方なら、「スマホで長文を書く」という選択肢もないわけではありません。最近では、現場で長文の原稿をスマホで書いて送信する新聞記者なども増えてきたと聞きます。また小説投稿サイトなどに、スマホから連載小説を投稿している人もそれなりの数が存在します。ただ、長文とは言ってもせいぜい数千字程度の文章ならともかく、書籍1冊分の数万~10万字の文をスマホで書いて、しかも推敲・校正をしながら文を練っていく、という作業を画面の小さいスマホで行うのは現実的ではありません。強いて言うなら、画面サイズが大きいスマホ、またはタブレットを使い、外付けのキーボードを用意して長文入力を行う…というやり方があります。しかし、それでもパソコン+ワープロソフトの使い勝手には到底敵いません。ここはやはり、パソコン+ワープロソフトで原稿を作成するのがいちばん合理的かつ現実的でしょう。

2.全体のボリューム ~文字数を決める

 電子書籍市場の特徴のひとつに、「ミニコンテンツ」が売れる…という現実があります。電子書籍分野でミニコンテンツという言葉が指すのは、「安くて短い書籍」のことです。電子書籍はスマホで読まれることが多いため、文章量が少なくて手軽に短時間で読めるものが好まれるのです。読書に慣れている人なら文字数が少ない書籍は物足りなく感じるものですが、最近は若い世代を中心に活字愛好者が少なくなった上、通勤電車の中などで気軽に読んで短時間に読了できる短めのコンテンツが好まれます。実際に、AmazonのKindleストアなどでベストセラー書籍を見ると、例えば有料書籍の上位20位中の作品の大半が、ジャンルは様々ながら単価100~350円程度で文字数が2~3万字程度の書籍が占めていることがわかります。アメリカのKindleストアでも全く同様の傾向にあります。2~3万字程度のミニコンテンツで安価な書籍が圧倒的に売れています。要するに「安くて短い書籍」は、国を問わず電子書籍ユーザーのニーズに合致しており、よく売れているのです。そこで、とりあえず「売れる本」を書こうと思うなら、まずは「2~3万字」のボリュームのコンテンツを考えてみるのもいいでしょう。

 一方で、2~3万字といえば400字詰め原稿用紙で50~75枚程度に該当します。小説など純文学の世界では150枚程度の作品が「中編」として認知され、50~75枚というと「短編」ということになります。本格的な小説や紀行文、趣味分野の専門書、自叙伝などを書きたい、読んでもらいたい人にとっては、「50~75枚程度では書きたいことも書けない」という話になって当然です。例えば本の厚みや文字数が概ね一定となっている「新書」の場合、一冊あたりのページ数が200~250ページ、総文字数は12~15万字くらいが平均です。逆に言えば「まともな本」は、やはり10万字を超えるものの方が一般的なのです。小説だけでなく趣味分野の解説本やハウツー本などを書くにしても、ちょっと内容を詳しくしていけばすぐに10万字を超えてしまうはずです。となると、自分が書きたい本のボリュームは絶対に10万字を超える…という人は多いでしょう。でも、これはこれで構いません。いくらミニコンテンツが売れていようと、やはり「書きたいことを書きたいように書く」のが基本です。電子出版をしてみよう…と考える動機は、まずもって「自分が書いたものを世の中に出したい。1人でもいいから読んで欲しい」という気持ちからスタートすべきです。「ともかく売れ筋の本を出そう」「電子出版で小遣い稼ぎをしてみよう」ではないはずです。となれば、「売れ筋だから」という理由でわざわざミニコンテンツにこだわる理由はありません。やはり「書きたいものを書きたい長さで書く」のが、原稿執筆の基本であるはずです。

 そして「短いコンテンツがより売れやすい」というのは事実であっても、けっして「長いコンテンツは絶対に売れない」ということではありません。当たり前の話ですが、内容が大切です。内容さえよければ、つまりコンテンツ自体が読者の興味を惹けば、コンテンツが長かろうと短かろうと売れます。ですから、最初から文字数にこだわる必要はありません。まずは、自分が何を書きたいか、書きたい内容、訴えたいことを読者に伝えるためにはどの程度の文章量が必要かを、じっくりと考えた上で書き始めましょう。

3.効率的な執筆方法

 原稿の書き方には個人差があって当然です。あまり構想を決めずに最初から書きたいように書いていく…という人もいれば、最初にきっちりと全体構想や文字数を決めて書いていく…という人もいるでしょう。長い文章を書き慣れた人には、それぞれのスタイルがあります。原稿なんてものは、自分が書きやすい方法で書いていけばよいのです。しかし、書籍を出版する、原稿を書くとは言っても、長い文章を書いた経験が少ない人は、どのようにして「他人に読ませる」文章を書いたらよいかわからないかもしれません。そこで、本項では素人でも書きやすい「効率的な原稿執筆方法」について書いてみたいと思います。

①おおまかな構成・体裁を決める 

 まずは書籍のタイトルを決めます。タイトルは検索用キーワードなどにも関係するのでとても重要ですから、内容を勘案してじっくり考えて決める必要があります。書き始めの段階では「仮タイトル」で構いません。その決めた仮タイトルをファイル名にして、原稿を書き始めましょう。
 書籍全体の構成をイメージすることは重要です。基本的には、次項②で説明するように「章立てを決める」ことが、本の基本構成を決めることにつながります。逆に言えば章立てさえ決まってしまえば、あとは各章のタイトルに従って内容を膨らませていくだけ…とも言えます。しかし、章立てを決めるのは簡単ではありません。その前に本全体の構想を練り、全体の構成を考える必要があります。

 例えば「旅行記(紀行文)」を書く場合、出発から帰国まで時系列で書くのが普通です。でも、訪れた場所すべてを同じボリュームで書くのではなく、印象に残った場所や出来事、出会いについては何章も費やして書き、それ以外の場所は簡単に記すに留めるなどして、全体にメリハリをつけた方が面白い読み物になるでしょう。また体験談として難病の闘病記を書く場合、治療経過を主に時系列で書いていくだけにするのか、同じ病を持つ人へのアドバイスをメインにするのか、家族や友人など周囲の人の対応や交流をメインにするのか、自分が本当に訴えたいことを考えて原稿量を配分して構成した方が読まれやすい本になるでしょう。  さらに構成が重要となるのは、ハウツー本など実用書系の書籍です。例えば、自分自身が実践しているオリジナルの健康法やダイエット法を紹介する書籍の原稿を書くとします。その場合、ただ「実際の効果を示した実体験」だけを書いたのでは、説得力がなく信ぴょう性に欠けるものとなります。実体験に加えて「なぜその方法に効果があるのかの科学的根拠」「他の健康法・ダイエット法との違い、比較メリット」「誰でも実行できる具体的な方法」…などを、できれば章を分けて詳しく書いていく必要があります。あらかじめ章立てをイメージした構成を考え、場合によっては資料を集めて整理する作業も必要となります。

 またこの段階で、「だ・である調」にするか「です・ます調」にするかを決める必要があります。これは内容によるので、自分の判断で考えて決める必要があります。基本的にはどちらでも書きやすい方を選べばよいのですが、一般的にはエッセイなどは「だ・である調」で書けばフランクで親しみやすい、ある種感情移入がしやすい文になり、「です・ます調」は丁寧でロジカル(論理的)な印象を与える文になります。また、若い人は「だ・である調」の方が口語に近いので、書きやすいかもしれません。また、同世代の読者も共感しやすいでしょう。一方で年配の方は「です・ます調」の方が言いたいことを丁寧に伝えられ、自分が読む場合には読みやすい文章に感じる傾向があるでしょう。

 縦書き・横書きを決めることも重要です。年配の方を中心に「本は縦書きが当たり前」という人も多いでしょうが、最近ではビジネス書やIT関連の技術書、各種実用書などを中心に、横書きの書籍も増えてきました。特に電子書籍では、横書きがかなり増えています。というのも、スマホやパソコンで本を読むことが日常化している世代は、たとえ小説であっても横書きで読むことを苦にしません。それどころか、横書きの方が読みやすいという人も増えてきています。前述した「小説家になろう」と、付随する「小説を読もう」というサイトも横書きで読むことが基本となっています(専用ビュアーを使えば縦書きでも読めますが…)。とは言え、一般的には縦書きを選択すれば、まず間違いはないでしょう。  ところで、本書はあえて「横組み」を選択しました。小説やエッセイではなく「ハウツー本」であって横組みでも違和感が少ないこと、内容の性質上、特に第Ⅱ編ではコンピュータ用語やアルファベットの文字列が大量に表記さ入れていることなどが理由です。

②章立てと各章のタイトルを決める(目次を作る)  

 全体構想を終えて原稿を書き始めるに際しては、章立て、章のタイトルを決めて目次を作成するのが、第一にやるべきことです。原稿が長ければ長いほど、章立ては重要になります。章のタイトルは、ともかく具体的に章の内容を表すものにします。
 「目次ができれば本は書ける」というのは、出版業界でよく言われる言葉です。筆者の経験的にも同じことが言えます。特にハウツー本など実用書系の書籍や趣味分野の解説本などは、訴えたい内容を論理的にわかりやすく構成する必要があり、そのためにも書く順序、すなわち原稿全体の構成、ひいては目次を決めることは非常に重要です。
 また章立ては、読みやすさに大きく関わってきます。原稿が長ければ長いほど、飽きさせないで読ませるために原稿の流れの中にメリハリが必要です。各章の文字数にも配慮が必要です。原稿が長いほど多くの章を立てて、各章の文字数を減らす必要があります。各章にうまく内容を振り分け、それぞれが飽きない程度の文章量とすることで、長い原稿をスムーズに読み進めさせることができます。さらに各章の文字数は、ある程度揃えるようにしましょう。
 実用書やハウツー本などであれば、章の下にさらに項目を作るのもよいでしょう。最初の段階でこの項目レベルまで決める必要はないでしょうが、念頭に置いておきましょう。例えば6~7万字の原稿を書籍化するなら、最低でも10章以上に分割し、さらに各章の下に2~3項を作れば、1項目当たりの文字数が2~3000字程度に収まり、メリハリがついて読みやすくなります。  

③章ごとにラフな内容を書き、それに肉付けしていく

 章立て・項目を決めたなら、各章ごとに内容を書き始めます。とはいえ、執筆に慣れていない人がいきなり長くまとまった文章を書くのは難しいことです。学校の定期テストや入試などでよく「200字以内でまとめよ」といった記述式問題が出題されますが、この「200字」でまとめることすら多くの人が苦手としています。だから、いきなり長い文章を書こうとする必要はありません。ワープロを使って書く場合、章の冒頭から順に論理的な文章を書いていく必要はないのです。まずは思いつくままに、その章で書きたい内容、要素を「短い文」や「フレーズ」として書き散らかしていきましょう。そうして書きあがったたくさんの文をつなげたり、順序を入れ替えたりしながら、徐々に長い文章にしていくのです。
 また、原稿の中で「書きたいこと」や「要点・要素」を箇条書きのように項目として並べ、それぞれの項目に肉付けてしていく方法もあります。これは、以前話題になった「カード式整理法・文章法」と似たやり方です。カードに要点や要素を書いてそれを大きな紙の上に並べ、並べ替えながら文章を作っていくやり方ですが、これをワープロ上で行うわけです。ワープロの画面を例えば大きなホワイトボードの画面と想定し、そこにカードを貼るように要素となる言葉をたくさん書き散らかして、入れ替えたりつなげたりして全体の構成をまとめていくわけです。
 こうして書いたたくさんの短い文章の集積が、さらに肉付けをすることで章の中の少し長めの文章となり、それらの少し長めの文章を集積したものが項目や章になっていくのです。

 またこういう「切り貼り」「肉付け」といったスタイルで長い文章を作っていく作業は、思考を整理するプロセスでもあります。書籍全体の当初の構想に沿った、まとまりのある文章にするためには、多くのフレーズをつないだり削ったり、書き足したりして作り上げた文章を、さらに何度も読み返しながら整理しまとめていく作業です。この作業を通じて、全体を通す考え方がきちんと表現されているかどうかを、頭の中で常に検証するようにしましょう。
 複数の文章をつなげたり削ったりして長い文章を作っていくと、文章の論理性に問題が出てくることがあります。複数の文章を組み合わせて長い文書を作成する際には、文章の論理性に留意しましょう。前後の文脈で言っている内容が異ならないよう、また文章間で論理的矛盾が生じないよう、文章に手を入れていってください。
 また、第1章から順に書いてく必要もありません。全体が10章で構成されるとしたら、例えば最初に第5章を書き次に第2章を書く…というふうに、書きやすい章から書いていけばよいのです。同じように、章内の複数項目を描いていく場合でも、第1項から書き始める必要はありません。書きやすい項から書いていきましょう。
 そして、こうしたパソコンとワープロを使った「切り貼り」「肉付け」によって文章を作っていく過程で、何か調べたい、確認したいことが出てこれば、その場でネットで調べることが可能です。むろん、後述するようにネット上の文章を「コピペ(コピー・アンド・ペースト)」することは絶対にダメですが、それでも「調べながら書ける」ことは、パソコンを使った執筆の大きなメリットのひとつです。

 最後に、段落や改行の使い方にも留意が必要です。段落は、読者にどこが内容の切れ目なのかを判断する材料となり、文章の展開に対する理解を助けるものです。段落がない文章を延々と続けると、読みにくい文章になります。逆に段落や改行が多過ぎると文章全体が散漫になって、締まりやリズムがなくなります。エッセイなど意図的に段落や改行を多くして、文章に「軽さ」を演出することもあります。内容に合わせて、適切に段落や改行を使うことを心掛けてください。

4.もう1つの執筆方法

 原稿執筆初心者ではあっても、仕事関連や学業・研究関連など何らかの理由で「文章を書く」という行為にある程度慣れている人、または「文章をたくさん書くこと自体が好き」という人の場合、前項までに示した方法とは全く逆の執筆方法が有効なケースがあります。つまり「本の構成も章立ても目次も一切考えずに、思いつくままにだらだらと書いていく」…というやり方です。
 この執筆方法は「書きながら考える」「書きながら思考をまとめる」という意味では、実はそれなりに理に適った方法でもあります。確かに、あらかじめ構成や目次を決め、核心部分を書き散らかしてそこに肉付けしていく…というやり方は、短時間でまとまった書籍原稿を書きあげるために効率的なやり方ではありますが、一方で「ともかく全体を書いてみないと原稿のボリュームも構成もわからない」という考え方にも納得できる面があります。

 ただし、この執筆方法で原稿をまとめるにはいくつかの前提があります。まずは、少なくとも、書籍原稿は書いたことがなくても趣味や仕事の中で文章を書くこと自体には慣れており、論理的な長い文章を書くことが苦痛ではない人、論理的な思考に自信があり、頭の中で文章全体を組み立てながら長文を書いていける人…であれば、「書きながら本をまとめる」ことは十分に可能です。そして、長く書くことが苦痛ではなく文章を書くこと自体を楽しめる人にとっては、こちらの方がむしろ楽な執筆法といえるでしょう。
 こうした執筆方法で書いたとしても、やはりワープロソフトで原稿を書く利点は同じです。ともかく本一冊分に相当する原稿を書き上げた後で文章を手直しし、全体の流れや構成を考えて章や項目に分割し、必要であれば文章を大きく入れ替えたり、いったん決めた章の順序を入れ替えたりすることで、計算された構成を持つ完成度の高い本を作ることができます。ワープロならば、こうした作業は簡単にできます。

 この「だらだらと書いていく」執筆方法は、毎晩少しづつ書き溜めて時間を掛けて体験談や自叙伝を作りたい人とか、思い出すままに旅の記録やエッセイを書き綴りたい人などには、特に向いているかもしれません。この手の本は、出来上がった原稿を読み直しながら、後からタイトルや章立てを決めていってもそれなりにまとまるからです。逆にこの方法で実用書や趣味分野の本を書くためには「原稿のテーマがほぼ完全に固まっており、内容のベースとなる知識が完全」であることが必要となります。

 原稿を書く方法は自由です。「文章を書く」ことに対する慣れ、そして経験や技術には個人差がありますし、性格面の個人差もあります。ともかく、自分がいちばん書きやすい方法で書いていけばよいのです。  

5.読みやすい文章を心掛ける

 原稿を書くに際して、執筆初心者の場合は「うまい文章」「美しい表現」などをあまり意識しないことも重要です。いちばん意識すべきは「平易でわかりやすい文章」です。その「平易でわかりやすい文章」を書くために、まずは「簡潔な表現」を心掛けてください。くどくどと同じ内容を何度も繰り返してはいけません。そして初心者ほど、「無駄が多い表現」「冗長な表現」を多用しがちです。例えば「スマートフォンというものは、大変便利なものだが、時にプライバシーの流出を招くことがあるということだ」のような文を書いていしまうのです。この場合「便利なスマートフォンだが、プライバシーの流出には気をつけたい」とシンプルに書けばよいのです。

 修飾語が多過ぎる文章も「くどい文」です。削っても文の意味に影響を与えない形容詞や副詞は、できるだけ削った方が読みやすくなります。そして修飾語を使う場合には、意味の重複にも気を付けましょう。例えば、「まず最初に…」から始まる文の場合、「最初に」と意味が重複する「まず」という語は不要です。同じく、「すべてを網羅する」という文の場合、「網羅する」と同じ意味の「すべての」という語は不要です。
 また「○○と言えないことはない」とか「○○をうまく使えば、××はできないわけではありません」のような二重否定も「くどい文」の代表です。後者の文なら「○○をうまく使うことで、××はできます」とすればよいだけで、わざわざ二重否定を使う必要はありません。二重否定文を絶対に使っては駄目ということではありませんが、ここぞという強調したい時だけに使うに留め、多用しないようにすべきです。

 「言うまでもなく…」とか「周知のとおり」といったフレーズも多用すべきではありません。一般的には強調したいところで使うのですが、別にあってもなくても文章の意味は変わらない訳で、多用するとくどい文章になります。「むろん…」で始める文章も同じです。多用すべきではありません。

 句読点の付け方も重要です。あまり句読点が多過ぎると文章にリズムがなくなって読みにくくなります。一方で、句読点が少な過ぎる、だらだらとした長い文章も読みにくいものです。文の長さを考え、バランスよく句読点を打つことがポイントです。

 括弧()や「」(カギカッコ)やの使い方にも留意しましょう。()や「」をあまり使い過ぎると読みにくくなりますが、うまく使えばわかりやすい文を書くことができます。また、実用書やハウツー本などを書く場合は、箇条書きをうまく使うのも、わかりやすい文章を書くにあたって有効です。  いずれにしても「平易でわかりやすい文章」「読みやすい文章」を意識せず書けるようになるまでには、ある程度の「モノを書く経験」が必要です。そして読書経験も必要です。文章が美しいと評価されている作家の小説やエッセイ、時事問題や社会問題を書いた新書、新聞記事や新聞の社説など日常的にたくさんの本・活字を読むことで、自然に読みやすい文章が書けるようになるでしょう。  

6.書籍原稿としてまとめる

 全部の章が書きあがったら、全体を一つの書籍原稿として読み直します。まずは、原稿全体を貫く一貫性、整合性があるかどうかを検証します。次いで、ゆっくりと原稿全体を何度も読み通し、自分が言いたかったこと、書きたかったことがきちんと表現されているかどうか、書き洩らした点はないか、逆に同じことを何度も繰り返し過ぎてくどくなっている部分はないか…、などを見ていきます。原稿全体が読みやすいかどうか、全体にメリハリがあって読者を飽きさせないかどうかを、「読者の立場に立って」読み込み込んでいきます。

 細かい部分の論理性の再検証も重要です。文章内、各章間で論理の矛盾が生じていないかどうかを  各章のタイトルや章の下に設けた項目のタイトル、見出しなどについても、もう一度見直しましょう。章のタイトルが実際に書いた章の内容を表わしているかどうか、目次にして並べたときに書籍全体の流れが不自然になってはいないか…、等を見ながら、章タイトル、項タイトルを手直ししていきます。大手電子書籍プラットフォームでは、書籍紹介ページに目次を掲載できるので、目次で内容が判断されることも考えて、しっかりと内容を表すバランスのとれた目次になっているかどうかを検証しましょう。
 そして、小説以外の作品では一般的に「前書き」もあった方がいいので、この段階で前書きを書きます。大手電子書籍プラットフォームでは、書籍を購入する前に内容の一部を無料で読める機能を提供している例が多いので、その際に読まれやすい前書きは、ある程度力を入れて書くべきです。1000字程度で書籍の内容を過不足なく表す文章を書くようにします。

 そしてこの、原稿がまとまり、章タイトルも最終的に決定した段階で、「書籍のタイトル」を決定する作業に入ります。書籍にとってタイトルは非常に重要です。先に述べたように、特に電子書籍においては書籍のタイトルが販売プラットフォームの中での「検索用キーワード」の役割を果たす、という面があります。まず、実用書やハウツー本、趣味ジャンル解説本などの場合、「格好いいタイトル」など考える必要はなく「ずばり内容を表すタイトル」にすべきです。タイトルは短くワンフレーズで、などと考えている人もいるでしょうが、むしろ多少長くなっても書かれている内容をしっかりと表すものにするのがよいでしょう。サブタイトルを使うのも有効です。そして、読んで欲しい対象読者層などをサブタイトルにするのでもよいでしょう。例えば、中高年向けにやさしく解説したスマホの活用法を書いた本を出す場合、「シニアのためのスマホ活用法」というタイトルよりも、「60代からのスマホ活用法」とした方が、多くのスマホ関連書籍の中で目につきやすくなります。タイトルに関しては、既存のベストセラー本のタイトルをいろいろと見て参考にすると、「売れる本のタイトル」のイメージがある程度分かってくるはずです。

 さて、一応原稿がまとまり最終的なタイトルも決まった段階で、その原稿を誰か身近な人、親しい人に読んで評価してもらうことも重要です。できれば、自分が読んでもらいたいと考える想定読者層に近い人がいいでしょう。例えば、女性向けのダイエット本を書いたのならダイエット経験のある若い女性の友人に読んでもらうとか、趣味の釣りの本を書いたのなら釣り仲間に読んでもらうなどして、読みやすいかどうか、きちんと書きたいことが伝わるかどうかを確認するのです。もし「ダメ出し」をもらったら、書き直せばいいだけです。また、読書慣れした人に読んでもらえば、文章の読みやすさや良し悪しだけでなく、次項で説明する「表記の統一」や「表記の間違い」などについても指摘してもらえるでしょう。